マーケット / クレジット
プライベート・クレジットへの投資機会:拡大を続ける投資ユニバース
2025年3月17日

強まるクレジットへの追い風 
 

プライベート・クレジット市場は、経済成長、魅力的な利回り、潤沢なドライパウダー(投資待機資金)、従来(貸し手となってきた)銀行への規制の厳格化に後押しされ、今年さらに拡大しそうな状況にあります。

ダイレクト・レンディングの運用会社は、約3,000億ドルを投下する用意があり、レバレッジド・バイアウト(LBO)活動は2024年終盤以降の勢いがさらに加速する様相です2M&A活動も増加が期待されます3。特に米国では、新政権下で規制緩和、独占禁止法に基づく監視の緩和、さらには減税が行われる計画があるためです(もっとも、貿易政策をめぐる不確実性が、逆の影響を及ぼす可能性はありますが)。

プライベート・クレジットの長期的な展望は、この資産クラスの魅力と進化の両面から、ことさら明るいと当社は考えます。プライベート・クレジットは、過去10年間にその市場が成長したことからも明らかなように、利用者(借り手)と提供者(貸し手)の双方にとり、説得力があって持続的な価値提案であると当社は確信しています。

パンデミック後の環境下でマクロ経済が変動したため、プライベート・クレジットのソリューションが借り手から注目されるようになりました。これらの借り手は、機動性、柔軟性、パートナーシップ志向の方法といった、これまで公開市場の資金調達にはなかった特徴を高く評価しているのです。さらに、借り手がプライベート・クレジットから得られる点として、契約締結とプライシングの確実性(特に市場で価格形成の歪みが発生している場面)、より高い機密性(企業が幅広い投資家基盤への情報開示を避けたい場合に重要になりえる)、借り手や融資対象となる資産の独特なニーズを満たすことを目的とした取引条件や制限条項(コベナンツ)のカスタマイズが考えられます。

プライベート・クレジット市場の貸し手は、規律のある基本的な審査プロセスを維持しており、多くの場合に伝統的な貸し手に比べ、借り手に関してより深い知識を持つという有利な状況にあります。また、プライベート・クレジット市場の貸し手は、非流動性プレミアムと複雑性プレミアムによるリターンの向上を享受でき、さらにストレス時の下方リスク緩和に向けた条項をストラクチャリング時に盛り込む事ができます。 

このような魅力的な特徴を持つことから、この資産クラスは進化を続けています。プライベート・クレジットは、企業への直接融資で最も良く知られています。直接融資は、プライベート・クレジットの黎明期において同資産クラスのかなりの部分を占めましたが、そこにとどまらず、当社の見解では、成熟期に入っています。しかも、米国の新政権下で新規株式公開(IPO)の門戸が広がることにより、衰退する可能性すらあるでしょう。プライベート・クレジットの次の成長段階は、インフラストラクチャー、不動産、ABFなど、プライベート・クレジットの専門分野が中心となるでしょう。

 

資本を惹きつける高い利回り水準 
 

案件数の増加は当セクターにとってプラスです。米連邦準備理事会(FRB)が2022年に利上げを開始して以来、利回りの上昇を受けてプライベート・クレジットに資本が集まっていますが、その一方で案件数の減少圧力にもなりました。LBO活動は20222024年にかけて減少し4、信用スプレッドが縮小し、財務制限条項(コベナンツ)が軟化しています。

2024年の終盤に利回りが回復し始めましたが、これがプライベート・クレジットに与える影響は複雑であると言えるでしょう。利回りの高止まりが長期化すれば、これからも資本はパブリック・クレジットとプライベート・クレジットの両方に惹きつけられるはずです。しかし、昨年、各国中央銀行が利下げを始め、借り手はより低い金利での借り換え好機を得たものの、この絶好の機会は去りつつあります。プライベート・クレジットの融資は変動金利である場合が多いため、さらなる利下げがなければ、特に経済成長が失速した場合、逆境に晒された借り手が難しい決断に迫られることになるかも知れません。

米国におけるプライベート・クレジットのデフォルト率は昨年3%を下回っています(シニアかつ担保付きの債権とユニトランシェの債権で構成される指標に基づく)5

 

長期目線でのプライベート・クレジット投資 
 

代替的なクレジットは、数十年にわたる成長トレンドの序盤にあると当社は考えます。

世界金融危機(GFC)以来、規制環境の厳格化を背景に銀行は活動を縮小させました。その一方、投資家はプライベート・レンディングの提供する、より高い利回りに惹かれました。この結果、プライベート・クレジット市場は、運用資産残高(AUM)が2023年時点で約17,000億ドルに拡大し、市場規模においてレバレッジド・ローンとハイイールド債の両方を上回る速さで成長しています6。ムーディーズによれば、世界のプライベート・クレジットAUMはさらに拡大し、2028年までに3兆ドルに達する可能性が高く、その70%が米国内の伸びとなる見込みです7

しかし、こうした数値は、これまでにプライベート・クレジットの成長のほとんどを占めていた企業向けのダイレクト・レンディングに偏っているきらいがあります。当社の見方では、アセット・ベースド・ファイナンスなどの専門分野は、個人投資家や保険会社の資金プールなどの他の資金供給源も相まって、これらの推定値以上にプライベート・クレジット市場を飛躍させる可能性があります。プライベート・クレジットにとって進出が可能な市場は、米国だけでも30兆ドル以上にもなり得ると、マッキンゼー・アンド・カンパニーは分析しています8

こうしてプライベート・クレジットという資産クラスが深化すれば、投資家にとっては、分散化を向上させたり、ポートフォリオの資産を投資目的にさらに合致させたりできるようになる可能性が生まれます

 

拡大する投資機会を最大限に活用 
 

信用スプレッドが縮小し、企業向けダイレクト・レンディングの市場がピークに達する可能性があることを考慮すると、投資家は、プライベート・クレジットの機会集合が幅広くなっていることから恩恵を受けられる立ち位置にあります。また、投資家は、アセット・ベースド・ファイナンスやスペシャルティ・ファイナンスにより、グローバル経済の屋台骨を支える活動に資金を供給する手段を得ることができます。

ここでは、プライベート・クレジットの中で、今後特に魅力的になると思われる3つの分野を取り上げます。

インフラストラクチャー

インフラストラクチャー・デットは、インフラ資産の持つ独特な性質からメリットを享受できます。それが特に当てはまるのが、高い参入障壁と安定的なキャッシュフローのある市場で、必要不可欠なサービスを提供するインフラ資産です。インフラストラクチャー・デットからは、魅力的なリスク調整後リターン、インフレの影響の緩和、低い変動性、資産と負債のマッチング、分散効果という、注目せずにはいられない組み合わせが期待できる可能性があると当社は考えます。

例えば、全体的な累積デフォルト率は、非金融事業会社の方がインフラストラクチャーよりも、何倍も高いのです(図1の左図参照)。そして、事業会社とインフラの回収率は、ほぼ同様に推移するものの、時が経つにつれ、事業会社の回収率がインフラの回収率に後れを取るようになります(図1の右図参照)。また、事業会社の格付けの変動性は、市場が混乱する最中に跳ね上がる傾向にある一方、インフラの格付けは比較的安定を維持してきました(図2参照)。

図表1:インフラストラクチャー・デットはデフォルト率が比較的低い
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デフォルト率 回収率

出所:ムーディーズ 「Infrastructure Default and Recovery Rates, 1983-2022

図表2:そして格付けの変動性が低い
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格付けの1年間の変動性

出所:ムーディーズ:「Infrastructure Default and Recovery Rates, 1983-2022

そのうえ、インフラストラクチャー・デットは、インフラの成長への追い風から恩恵を受ける立ち位置にあります。すなわち、当社が「3つのD」と呼ぶ、デジタル化、脱炭素化、脱グローバル化であり、それと共にクリーンエネルギーに対する企業からの強い需要もあります。これらのメガトレンドにより、今後30年間で200兆ドルにのぼる投資となるインフラのスーパーサイクルが起こるとブルックフィールドは予測します。インフラと再生可能エネルギーの資産は、費用の50%~70%を債務で賄うことが多いため、この投資機会のかなりの部分が債務になると当社は予想します。

不動産

インフレの高止まりが長期化する現在の環境下、ダウンサイドを緩和しつつ、強いリターンを生み出すことが可能であると当社は考えます。

商業用不動産市場の調整は、ほぼ一巡しました。米国を筆頭に先進国経済の拡大が続くなか、ファンダメンタルズは高品質のオフィス・セクターにおいて好調であり、他の不動産セクターにおいても、おおむねどこも好調であると当社は見ています。

不動産デットには分散効果があり、また、他のフィクスト・インカム商品よりも高いリスク調整後リターンを生む可能性があります。そのうえ、不動産デットは事業会社の債務よりもデフォルト率が低く、回収率が高いことが実証されており、それと同時に資本構成の中で、不動産エクイティよりも安全性の高い位置付けとなっています。

さらに、ファンダメンタルズが好調で、プライベート・クレジットとプライベート・エクイティに、かなりのドライパウダー(待機資金)が投資可能な状態にあることを考慮すると、市場の取引金額が増えることを当社は予想します(図3参照)。

図表3:PE不動産投資会社は莫大な金額のドライパウダー(待機資金)を投下する用意がある
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ドライパウダー総額

出所:プレキン、2025

資産担保融資

資産担保融資(ABF)は、急速に拡大しているプライベート・クレジットの分野であり、消費者ローンから航空機リースや知的財産権を担保としたローンまで、様々な融資をこの分野に含めることができます。

銀行は、アセット・ベースド・レンディング市場における活動を縮小しています。その理由は、世界各国におけるバーゼルIIIとバーゼルIVの「エンドゲーム」と呼ばれる最終化の適用、貸付損失に関する新たな会計基準の適用、銀行の財務に計上された多額の未実現損失です。そのために出来た空白を埋めるため、プライベート投資会社は進出しています。投資可能な市場については、様々な推定値があるものの、数兆ドル規模であり、現在プライベート・クレジットはその5%程度を占めているに過ぎないという見方に当社は同意します9

投資家がアセット・ベースド・ファイナンスから享受できるメリットとしては、ストラクチャーによる保護、伝統的なコーポレート・ファイナンスからの分散化、魅力的なキャッシュフロー、ニッチ市場へのエクスポージャーを得る機会などが挙げられます。ニッチ市場は、イディオシンクラティックな(市場に連動しない)特性を持ち、リターンにのびしろがあるにもかかわらず、見過ごされがちな市場なのです。

とはいうものの、投資を行なう際、経験を積んだ運用会社を選ぶことが重要だと当社は考えます。彼らはスペシャルティ・ファイナンスに通常伴う複雑性プレミアムから、利益を得ることができるからです。プライベート投資に重点を置く投資会社には、多くの場合、伝統的な企業のバランスシートを検討する訓練を受けたアナリストが数多くいます。しかし、これらのアナリストたちは、例えば航空機ファイナンスの融資枠や個人向け売掛債権のプールの評価には、それほど精通していそうにもありません。したがって、深い知見と長期的な関係性を持つ資産運用会社は、競争優位に立てるのです。

 

プライベート・クレジットにとって有利な状況
 

プライベート・クレジットには、投資するだけの強い論拠があります。高い利回りの持続によって魅力的なインカム収益とトータルリターンが実現する可能性があり、それと同時に、プライベート・クレジットが拡大傾向にあることから、投資家にとっては、より厳選して目的を重視したポートフォリオを築く機会が生まれます。そして、インフレの高止まりが長期化する現在の環境下、ダウンサイドを緩和しつつ、強い実質リターンを得る機会があると当社は考えます。

もちろん、クレジット・サイクルの様々な局面において、パブリック・クレジットとプライベート・クレジットとの間で、潮の満ち引きのような資金の往来はあるでしょう。例えば、この12ヵ月間、銀行はシンジケーション方式で市場に戻ってきました。また、トランプ政権下で、銀行に対する規制緩和が行われるかも知れません。さらに、銀行は投資会社と連携しており、それによって銀行はオリジネーションに特化し、投資会社はバランスシート上の貸出資産を買い取っています。  

プレキンによれば、この資産クラスは、現在の1兆7,000億ドルから2029年には26,400億ドルに達し、過去最高になると予測されています10。プライベート・クレジットは資産クラスとして、今後も著しい拡大を続けると当社は予想します。その理由はいくつかあり、例えば借り手にとっては、融通の利く選択肢があり、投資家にとっては、パブリック・クレジットよりも金利が上乗せされる可能性があります。プライベート資本による企業向けのダイレクト・レンディングが成熟期に入ったと推測されることから、投資家にとり、プライベート・クレジットの中から、エキサイティングで拡大する数多くの分野が検討対象として浮上するでしょう。

 

脚注

1. プレキン 「2025 Global Report: Private Debt」(202412月)   
2. ムーディーズ・レーティングス 「2025 Outlook – Primed for growth as LBOs revive, ABF opportunities accelerate」(2025121日)
3. ムーディーズ(2025年)  
4. パインブリッジ・インベストメンツ 「Will the Federal Reserve’s Rate Cuts Spur a Rise in Middle-Market Buyouts?」(2024122日)
5. プロスカウワー「Proskauer Announces Q4 Private Credit Default Rate of 2.67%」(2025121日)
6. 米連邦準備理事会(FRB)「Private Credit: Characteristics and Risks」(2024223日)FRBはプライベート・デットのデータに関してPreqinを引用している。
7. ムーディーズ・レーティングス 「2025 Outlook – Primed for growth as LBOs revive, ABF opportunities accelerate」(2025121日)
8. マッキンゼー・アンド・カンパニー 「The next era of private credit」(2024924日)
9. オリバー・ワイマン 「Private Credit’s Next Act」(20244月)
10. プレキン 「2025 Global Report: Private Debt」(202412月)

 

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