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価値の創出:非公開化とカーブアウトインフラのスーパーサイクルを背景に民間資本に対する莫大なニーズが生まれています。
世界全体で既存のインフラを維持・更新するとともに、データセンターのような新規インフラ開発プロジェクトを進めるためには、今後15年間だけで94兆米ドルの資本が必要になります1。ガス・電気・水道を各家庭に引き込むパイプや電線、半導体材料、医療機器、医薬品を世界中に運ぶサプライチェーンのいずれにおいても、インフラ投資の必要性はかつてないほど大きくなっています。また、多くの政府が予算上の制約に直面しているなかで、政府だけでそれを賄うことはできません。
政策リスクの観点から見ると、デジタル化、脱炭素化、脱グローバル化という「3D」のメガトレンドは、政治環境にかかわらず継続すると予想しています。インフラは、長期契約や規制に基づく高水準のキャッシュフロー、インフレ連動、安定した配当、市場サイクルを通じて魅力的なパフォーマンスをもたらすことが可能であり、その本来的な底堅さや必要不可欠な性質により、歴史的にボラティリティの影響を受けにくい資産です。
米国の一律関税は、予想以上の国内インフレや世界経済の成長鈍化をもたらす可能性があります。しかし、米国貿易政策の変化は、脱グローバル化のトレンドを強化し、運輸など一部のインフラ・セクターに有利に働く可能性が高いと考えています(一般論として、インフラ事業は高インフレから恩恵を受ける傾向があります)。関税が既存のインフラ資産(製品やコモディティ自体ではなく、製品やコモディティを運ぶネットワーク)に直接影響を与える可能性は低いものの、一部の相手国に影響を与える可能性があります。関税措置が長期化し、長期的な経済の不確実性を引き起こすならば、相手国の長期事業計画(主に新設プロジェクト)は遅れる可能性があります。この場合、設備投資の増加分は新規契約価格に転嫁することが可能です。
市場はまた、クリーン電力や脱炭素化の取組みを奨励する主要政策を導入した米国のインフレ抑制法(IRA)が改正されると予想しています。IRAの一部が見直される可能性はあるものの、一部の重要な優遇税制や公平性に関する規定は残ると予想しています。米国では電力需給の不均衡が著しいため、法律が廃止されるシナリオは想定していません。また、雇用や経済発展の面でIRAから最も恩恵を受けてきた州がもっぱら共和党主導の州であることは注目に値します。
マクロ経済・政治・業界環境は(常にそうであったように)引き続き時間の経過とともに変化するものの、世界的なインフラのスーパーサイクルは引き続き衰えることがないと予想しています。投資家にとっては、このトレンドは長期にわたり魅力的な投資機会を生み出すと見ています。
中国の人工知能(AI)開発企業ディープシークは最近、新しい大規模言語モデルに基づくチャットボットを発表して話題になりました。このモデルは、業界をリードする既存モデルと同等レベルのパフォーマンスを達成していますが、その開発における効率性が際立ちます。同社によると、同モデルの学習にかかった時間は2か月未満、エヌビディア(NVIDA)製の旧世代チップを約2,000個使用し、費用は僅か600万米ドルでした。この方法は、従来型の方法よりコスト効率と時間効率が著しく優れています。
中国製AIが米国製と同等であるならば、想定より少ないハードウェア・データセンター・電力、かつ僅かなコストで開発できることになるという懸念を反映して、株式市場は同ニュースに迅速かつネガティブに反応しました。しかし、上場市場の下落は概ね過剰反応だったと見ています。データセンター需要が減退するとは予想しておらず、当社の長期見通しは依然として良好です。なぜなら、需要は主にクラウドや消費者の利用によるものと予想されており、AIモデルの学習は予想される需要の約22%に過ぎない(図表1)2からです。
また、より効率的なAI技術は、データセンターや周辺インフラ・サービスに有利に働く可能性があると考えています。その理由は以下の通りです:
さらに、従来型のインフラ・セクターにおいて必要とされる投資の増加に繋がってきたデジタル化や他のメガトレンドを背景に、引き続き有望な投資機会があると見ています。これはさらに、データセンターのみならず、ミッドストリーム、公益事業、再生可能エネルギーなど他のインフラ資産への長期的な需要も促す可能性があります。
出所:ゴールドマン・サックス、EYパルテノン、CBRE、DCD。
今後10年間にわたり、世界全体で年間当たり日本の年間電力需要に相当する電力量が送電網に追加供給される見通しです4。国際エネルギー機関によると、2035年における世界の電力需要見通しは昨年の予想を6%上回ると見られています5。
データセンター運営事業者やそのテナントを中心とした企業からの強い需要がこの伸びを加速させており、その需要を満たすために、再生可能エネルギー・プロジェクトへの投資が世界全体で増加しています。世界最大の炭素排出源である電力セクターの脱炭素化のために、再生可能エネルギー発電の構築に向けて、前例のない規模の投資が世界的に行われると予想しています。
しかし、重要ながら見過ごされることが多い要素は、これら新たなクリーンエネルギーのすべてを送電網に接続し、最終消費者に届ける必要があることです。今後数年にわたり稼働すると予想される新たな再エネ発電を支えるために、電力会社は老朽化した送配電インフラを大幅に更新・交換する資本を必要としています。多くの送電網が今や数十年経過しており、既にフル稼働していることから、世界的な電力インフラの更新や取り換えに向けた大規模な投資なしには、将来のグリーンエネルギー開発は、向い風に直面すると見込まれます。
その結果、電力会社は、既存の運営資産を置き換え、ビジネスモデルを調整し、電力ネットワークを拡大し、既存業務の脱炭素化を行うために、新たな資金源から多額の資本を求めています。電力インフラの運営を支援する専用サービス・プロバイダーを求める顧客との契約に基づいて、非規制事業の収益モデルを確立する動きが増えています。
こうした大規模な脱炭素化の取組みを踏まえ、クリーンエネルギーのソリューションや送電網インフラの運営において規模と専門知識を有する投資家には、多大な投資機会が提供されると見ています(図表2)。再生可能エネルギー・セクターの成熟が進み、規制公益事業が進化・近代化するにつれて、民間資本へのニーズが高まると予想しています。
出所:「汎欧州公益事業:詳細調査:送電網への投資と加速するリターン」、バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチの推定、ブルームバーグNEF。
再生可能エネルギーに加えて、天然ガスや原子力発電からの電力供給も必要です。より具体的に言えば、天然ガスは総発電の約60%を占める見通しとなっており6、それが天然ガスの処理・輸送を担うミッドストリーム資産への多大な需要を生み出します。天然ガスと原子力は、ともに送電網を支えるベースロード電力を提供します。
多くの国や企業は、脱グローバル化トレンドの一環として、必要不可欠かつ戦略的な製造プロセスおよびサプライチェーンの「国内回帰」を目指しています。例えば、米国半導体工業会とボストン・コンサルティング・グループによると、米国内の半導体製造能力は2032年までに3倍増が見込まれています。これは世界最大規模です。実際に、米国の総製造業建設支出は近年急増しています(図表3)。その結果、国内の重要産業に対して大規模資本を柔軟に提供する投資機会が提供されています。
出所:米国国勢調査局、「総建設支出:米国の製造業」、FREDからの抜粋、セントルイス連邦準備銀行、2025年2月。
半導体製造が増加するにつれて、産業用ガス・インフラのニーズも増大しており、先端製造技術を用いた水素生産への投資が増加しています。産業用ガスの世界大手3社は、今後5年間だけで750億米ドルの設備投資ニーズを予測しており、これは前回の設備投資サイクルと比較して50%の増加です。
最後に、貿易パターンの変化が、運輸への魅力的な投資機会を生み出す可能性があると考えています。海運コンテナ企業のような運輸企業は、長くなったサプライチェーンから恩恵を受ける見通しです。
これまでインフラ資本の提供者となってきた世界の政府や企業の資産オーナーは、市場のボラティリティ、予算上の制約、債務負担の増大に引き続き直面しており、その多くが重要インフラ資産のオフバランス化に迫られています。インフラのスーパーサイクルを背景とした莫大な資本ニーズと資本の制約が高まる環境を受けて、資金調達の柔軟性と確実性が極めて重要になってきており、カスタマイズされた資本ソリューションの需要が高まっています。
AIの台頭や脱炭素化に向けた世界的な取り組みに伴って、魅力的な投資機会が提供されていることから、投資機会の幅が大きく広がっています。これらメガトレンドの進行に伴った膨大な資本需要を受けて、平均的な案件サイズも拡大しています。実際に、インフラのスーパーサイクルへの投資資金を提供し、資金不足を埋めるべく優れたポジションにあるのは民間資本です。
注記:
1. オックスフォード・エコノミクス、グローバル・インフラストラクチャー・ハブ、「グローバル・インフラ見通し: 2040年に向けて50カ国、7セクターでインフラ投資が必要」、2017年7月。
2. マッキンゼー、「AI電力: 増大する需要を満たすデータセンター容量の拡大」、2024年10月29日。
3. RAND、「AIの電力需要は指数関数的に増大」、2025年1月28日。
4. ニューヨーク・タイムズ、「世界全体の電力需要は予想以上に増大(I.E.A.)」、2024年10月16日。
5. IEA、「世界エネルギー見通し」、2024年10月。
6. 米国ガス協会、「AI時代を推進: データセンターの天然ガスへの依存」、2024年5月28日。
7. スタティスタ調査部、「世界中の産業用ガス」、2024年12月16日。
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