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NAVファイナンスの基礎:次世代のプライベート・クレジット

PE市場の急速な成長に伴って、NAVファイナンスは近年で大幅な成長を遂げています。

2024年4月15日
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ファンド・マネジャーとしての責務は、投資家の資本を適切に活用して、付加価値の創造、資本を必要とする企業そして善行に取り組む株主の支援、業界をリードする企業であるためのサポートを提供することです。一言で言えば、正しい目的を持った行動に注力することです。

ピエール=アントワーヌ・ド・セランシー

17キャピタル共同創設者

 

NAVファイナンスとは?
 

NAVファイナンスとは、投資ポートフォリオの純資産総額(NAV)1に基づいて主にプライベート・エクイティ(PE)ファンドに提供される、プライベートの資本ソリューションで、借り手における流動性の向上、付加価値の創造、効率的なポートフォリオ運用を支援する非希釈的資本を、主にデットまたはシニア・エクイティの形で提供するものです。NAVファイナンスは15年以上前から存在しているものの、PE業界の劇的な成長に伴って、近年普及が加速しています。PE市場規模は約10兆ドルと、2019年からでほぼ倍増、2014年からは3倍超の成長を記録しています2(図表1参照)。

 

図表1:PE業界は近年において急速に拡大している

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PE業界は近年において急速に拡大している

出所:プレキン、2023年6月時点。

PEファンドの投資期間中に利用されるケースが多いリボルビング融資枠とは異なり、NAVファイナンスは、一般的にファンドの運用(価値創造)期間、または投資コミットメントの多くが投資に回っている投資期間の終盤で活用されます(図表2参照)。

 

図表2:NAVファイナンスはPEファンドの運用(価値創造)期間に活用される

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NAVファイナンスはPEファンドの運用(価値創造)期間に活用される

出所:17キャピタル

NAVファイナンスは一般的に、貸し手と借り手特有のニーズに基づいてカスタマイズされるローンですが、その多くが共通する特徴を有しています:

  • 多様なPE投資を担保とする、弁済順位がシニアの金融商品である場合が多い。
  • 一般的に満期が長く、クーポンは変動金利。
  • NAVローン提供者に対する支払の原資は、組入投資案件からのキャッシュフロー。
  • LTVレシオは僅か5~30%、標準的な中規模直接融資案件の水準35~60%と比較しても低水準なのが一般的3
  • NAVファイナンスの満期前に組入投資案件の多くが現金化される予定。

 

 

NAVファイナンスの魅力:貸し手の観点
 

プライベート・クレジットの中でも急成長しているこの分野は、直接融資と類似するリターン獲得の可能性を提供するほか、一般的により強固なダウンサイド・プロテクションを提供します。さらに、歴史的に見ると、NAVファイナンスのリターンは、個々の資産のパフォーマンスではなく、PE業界の成長との相関性が高く、ボラティリティは相対的に低水準となっています。

一般的に、貸し手が損失を被る唯一のシナリオはポートフォリオの価値が大きく下落する場合であるため、(a) 組入投資案件の分散、(b) 強固なコベナンツ、(c) スポンサーとの利益の一致、といったポイントも貸し手にとってプラス要因となります。また、カスタマイズで形成されるその他のプライベート・クレジット程複雑ではないため、スピードを要求する借り手にとっては特に魅力的です。

 

 

NAVファイナンスの魅力:借り手の観点
 

NAVファイナンスを活用することで、ポートフォリオ・マネージャーは流動性を確保すると同時に、投資先案件からのリターンのアップサイドを維持することが可能です。さらに、この資金は積極的(例:追加案件の取得、デットの借換)にもディフェンシブ的(例:取得価格以下での売却リスクの低減、投資先企業の支援)にも活用できるため、マネージャーにおける柔軟性が向上します。

重要な点として、リターンの上昇余地を犠牲にすることなく流動性を生み出し、追加投資を可能とするNAVファイナンスは、PEファンドやその投資家における長期リスク調整後リターンの向上を支援するものです。

 

 

NAVファイナンスのリスク管理
 

NAVローンはシニアであるため、その返済は株式配当の払い出し前に行われます。ファンド・レベルでは弁済順位が高いものの、投資案件レベルでは構造的に債権者に劣後する点に注意する必要があります。言い換えると、投資先企業のローン返済が最優先となり、残るキャッシュがファンドに集まった後にNAVファイナンスの返済に充てることが可能となります。

しかし、前述した通り、NAVローンは多様な投資先案件を担保としており、LTVレシオは通常30%未満に設定されるため、貸し手が損失を被るのはポートフォリオ全体の価値が大きく下落する場合のみです。通常、この様な全体的な悪化は滅多にありません。1990年以降に設定されたPEポートフォリオ680件の分析では、投資倍率40.5倍未満を記録したポートフォリオは全体の5%未満にとどまっており、ポートフォリオのコストベースで損失が50%超となったケースは相当稀だった事が分かっています5

これは、ここ数十年にわたり、市場の混乱局面においても、PEファンドが一般的にかなり底堅く推移してきたという事実を反映しています。例えば、世界金融危機(GFC)の渦中、PEポートフォリオの平均価値は2007年12月の水準から約25%下落したのに対して、上場市場全般の下落率は約45%となっています(図表3参照)。

図表3:GFCとその後の混乱局面において、PEポートフォリオのボラティリティは限定的となった

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GFCとその後の混乱局面において、PEポートフォリオのボラティリティは限定的となった

出所:プレキン、ブルームバーグ。

NAVファイナンスの優れたリスク管理は、マネージャーと投資先資産の評価から始まると考えています。ある企業の株式価値の増大は、別企業の損失を相殺できるため、投資先案件のクオリティと分散を詳細に分析することが不可欠です。通常、相当程度のダウンサイド・プロテクションを提供する厳格なコベナンツを組み入れることでリスクの低減が図られることから、ストラクチャリングに関する専門知識も重要です。例えば、NAVローンで頻繁に使用されるコベナンツには次の様なものがあります:

  • 借り手による追加借り入れを制限する
  • ポートフォリオ組入資産の下限数を設定、または分散を強化するその他要件を含む
  • LTVレシオの上限を設定し、超えた場合にはローン全額返済を義務づける
  • デフォルト事由が発生した場合、ローン全額を回収するまで投資家への配当を禁止する

 

ファンドや投資家向けにローンを提供する際には、そのファンドの運用者を確認します。マネージャーは誰か?運用経験はどの程度か?トラックレコードは?リソースの出所は?資金調達サイクルのどの局面にあるのか?現在資金を調達しているか?その進捗状況は?今後数年間の資金調達計画は?などが最初の確認事項です。

ピエール=アントワーヌ・ド・セランシー

17キャピタル共同創設者

 

NAVファイナンスの成長見通し
 

市場環境の急速な変化に伴って、NAVファイナンスは近年で大幅な成長を遂げています。NAVファイナンスの案件は、2020年以降で2倍以上増加しており、2023年には約440億ドルまで増加しました7

この案件取引の加速は、新型コロナウイルス感染がピークを打った2020年4-6月期に始まりました。従来の方法による資金調達が困難となった結果、自身とその投資先企業の生き残りをかけたPEファンドの多くが、NAVファイナンスから資金を調達するようになりました。その後、PE案件フローが過去最高を記録した2020年後半から2021年にかけて、NAVレンディングの成長が更に加速しました。

興味深いことに、2022年初期に始まった金利上昇を受けて、PE案件取引が滞った後でも、NAVファイナンス需要は引き続き増加しました。米国、英国、欧州における金融政策のタカ派転換とそれに伴う市場の混乱によって、(a) スポンサーによる投資回収がさらに困難となり、(b) 配当水準は過去最低まで低下8、(c) 金融市場全般において流動性が低下したことから、NAVファイナンスは特に魅力的な資金調達手段となりました。その結果、多くのPEファンドが追加投資と流動性の管理に注力しました。マネージャーが厳しい融資環境下においても引き続き価値創造に取り組んだことから、2022年と2023年におけるPE投資の約2/3は追加投資でした9

今後も、過去10年にわたり年平均約15%の成長を記録してきた世界のPEユニバース10の拡大と進化に連動する格好で、NAVファイナンスの成長が継続すると予想されます。重要な点として、NAVファイナンスのターゲット市場となる投資期間を終えたPEファンドのAUMは、2030年までに5.5兆ドル規模に成長すると見込まれており、これは2020年以降で約60%の伸びとなります11

また、2023年において、PE市場に占めるNAVファイナンスの割合は僅か2%と、相当の成長余地が残されている点は注目すべきポイントであり、投資運用会社や機関投資家の間で人気が高まっていることもこれを裏付けています12。現時点の見通しによると、NAVファイナンス市場は、2030年までに1,450億ドルに達する可能性があります13(図表4参照)。

さらに、欧州で最初に人気を得たNAVファイナンスは、最近では北米でその利用が普及しています。実際のところ、2023年におけるNAVファイナンスの増加は米国で30%超を記録した一方で、欧州では前年比約20%となっています14。NAVファイナンスは、今後数年でより幅広い地域へと普及すると予想しています。

当然ながら、金融市場が今後数年でどのように進化するかを正確に予測することはできませんが、オークツリーがレポートで詳細に解説している金利の大転換によって、PEスポンサーは新たな資金調達源、新たな価値創造の方法、柔軟性を高める新たな方法の模索に迫られる可能性があります。この継続的な進化の過程において、NAVファイナンスは重要な役割を果たしつつ、拡大するプライベート・クレジット市場への新たなエクスポージャー取得の方法を投資家に提供するでしょう。

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NAVファイナンスの活用は大幅な拡大が見込まれている

出所:プレキン、17キャピタル(予測データ)。

 

オークツリーと17キャピタルのパートナーシップ
 

オークツリーは、成長著しいNAVファイナンスにおけるリーダーである17キャピタル(本拠地:ロンドン)の過半数持分を2022年に取得しました。相互に有益をもたらすこの取引を通じて、17キャピタルはオークツリーが誇る幅広いグローバル・ネットワークへのアクセスを獲得し、オークツリーは充実したプライベート・キャピタル・ソリューションの更なる強化を図っており、両社ともにPEスポンサー選好パートナーとしての座を確かなものにしています。両社は、補完的なビジネスモデルと専門性を有するほか、おそらく最も重要な点として、リスク管理と最高の倫理基準を維持することの重要性を強調しており、その哲学が強く合致しています。

「17キャピタルは、プライベート・クレジットの資産クラスにおいて最も急速に発展しているセクターの一つ、NAVファイナンスにおけるマーケット・リーダーです。リスク管理を重視する17キャピタルの投資哲学は、オークツリーの投資哲学と完全に合致しています。補完的なビジネスモデルと専門性は、両社の将来的な成長を促進するものであると考えています。

アーメン・パノシアン

オークツリー共同CEO兼パフォーミング・クレジット部門ヘッド

 

脚注

1. NAVは、投資ファンドの総資産から債務を差し引いたものです。

2. プレキン、グローバル・プライベート・エクイティ・ユニバースのAUMデータ、2023年6月時点。

3. 17キャピタルによる市場観察、2024年1月時点、UBS、JPモルガン月次ブログ、2023年9月。

4. 投資ファンドの評価総額(リミテッド・パートナーに支払われた全ての分配金の総額とファンドの残余投資先の未実現価値の合計)をファンドに払い込まれた出資金額と比較する、評価総額/払込出資金倍率(TVPI)を指します。投資倍率は、プライベート・エクイティ業界における共通のパフォーマンス評価基準です。

5. プレキン、2020年10月時点。データの基準:ベンチャー戦略を除くプライベート・エクイティ・ファンド、北米/欧州中心、1億ドル以上のファンド規模、1990年以降のファンド・ビンテージ、最終的なパフォーマンス指標が取得可能な解散ファンド。標本総数:680

6. 対応する参照期間について、プレキンによるプライベート・キャピタル・クオータリー・インデックス。プライベート・エクイティ戦略に関するデータのみ。

7. 17キャピタル、2023年12月時点のディールフロー・データ。

8. リード・パートナーズ・リクイディティ・インデックス、2022年下半期。

9. EYプライベート・エクイティ・パルス2022年第4四半期。2023年1月。

10. プレキン、2024年2月時点。グローバル・プライベート・エクイティ・ユニバースは、2014年12月から2023年6月までのデータ。

11. プレキン、2020年9月時点。

12. 17キャピタル、2023年12月時点のディールフロー・データ、裏付けとなるポートフォリオの担保価値の推定累積額。グローバル・プライベート・エクイティ・ユニバースのAUMデータ、2023年6月時点。

13. プレキンのデータに17キャピタルの想定を追加、2020年9月時点。

14. キャピタルの分析、2023年12月時点のデータ。

重要な開示事項

すべての投資にはリスクが伴います。投資の価値は時間とともに変動し、投資家においては、利益を得るもしくは投資の一部または全てを損失する可能性があります。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。

資産クラスとして、プライベート・クレジットは多様な債券で構成されています。それぞれのリスク/リターン特性は異なるものの、プライベート(非上場の)クレジット投資では、資金調達の選択肢が限定的な企業へのオポチュニスティックな投資を模索するため、一般的に、上場のものと比較してデフォルト・リスクが高くなります。

プライベート・クレジット投資では、通常、発行体が投資適格未満または無格付けであるため、より高いリスクの対価として利回りもより高くなります。

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