マーケット / 不動産
不動産市場、ついにリバウンドへ
2025年3月18日

不動産市場は底入れ


多くの分野で不確実性が継続しているものの、新たな不動産サイクルの始まりを示す明確な兆しが見られます。取引量の増加が価格発見の拡大につながる一方で、不動産市場全般にわたり供給は概ね抑制されており、需要は依然として旺盛です。

地政学的リスクは高止まりしており、市場のボラティリティが高まっていますが、不動産に対するリスクは総じて低いと考えています。新たな関税措置は一部のテナントに圧力を加えるばかりでなく、開発・建設が抑制され、供給の先細りが続く可能性もあります。

不動産は強固なファンダメンタルズを維持しているものの、すべての不動産セクターが上昇するとは予想していません。回復は一様ではなく、ストレスが残っており、イールドカーブはフラット化するものの、高水準が維持される見通しです。多くのマネージャーは、既存の物件や事業計画の多くがレバレッジの引き上げに対応できないことに気づくでしょう。

こうした状況はすべて、不動産投資を開始するにあたり魅力的なタイミングを生み出していますが、投資妙味のある機会を捉えるためには、市場と資産の双方の選択が不可欠と考えています。成功を掴むのは、ファイナンシャル・エンジニアリング(金融工学)に頼るのではなく、運営改善を通じてキャッシュフローを伸ばせるマネージャーであると考えています。

ストレスが投資機会を提供


不動産オーナーがストレス下に置かれるなかで、市場全般にわたり投資機会が浮上しています。壊れた資本構成、ファンド満期間近の圧力、解約待ち投資家の増加を背景に、民間資金のソリューションに対する需要が高まっています。こうした環境下では、オポチュニスティックなどの戦略が魅力的だと見ています。

迫りくるローン満期の壁はプライベート・クレジットにプラス

歴史的に見て、米国における商業用不動産向け融資提供者は銀行がメインとなってきましたが、世界金融危機以降、引受基準が厳格化し、銀行規制の強化が図られました。より最近では、2022年のインフレ高騰とその抑制を目指した米連邦準備制度理事会(FRB)の大胆な利上げが、銀行の利鞘を圧迫しています。2023年初頭の地方銀行危機では、大手米国銀行の監督強化に向けて更なる規制改革が提案され、商業用不動産融資の収益性がさらに低下しました。その結果、銀行はこれら融資機会からさらに遠ざかっていったのです。

足元ではローン満期の「壁」が近づいており、商業用不動産オーナーの多くが借り換えの必要に迫られています(図表1)。不動産融資からの銀行撤退は、プライベート・クレジット投資家のより多くの投資機会を提供しており、実際にプライベート・クレジット投資が増加しています。プライベート不動産クレジットの資金調達額は、2009年~2011年の年間約80億米ドルから2021年~2023年には同約310億米ドルへと、過去15年間で約4倍増しています1

図表11兆ドル規模の米国商業用不動産ローンが2025年に満期を迎える予定
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1兆ドル規模の米国商業用不動産ローンが2025年に満期を迎える予定

出所:S&Pグローバル、20248月。注記2をご覧ください。

高金利が長期化する環境を不動産投資家が受け入れるなかで、債券投資は、コア株式に匹敵するリスク調整後リターンを提供すると見られます。さらに、直接利回り、分散効果、現在の環境下で再評価された不動産に対する融資を考慮すると、プライベート不動産デット投資は引き続き魅力的だと考えます。

差し迫るファンド満期、GP主導のセカンダリー取引を後押し

今年の商業用不動産市場において、ディールフローの主要なドライバーとなる要因のひとつがファンドの満期です。数年にわたる停滞局面を経て、満期間近のレガシーファンド向けに流動性を確保すべく、スポンサーが市場に戻ってきています。一方で、リミテッド・パートナー(LP)は、新たな投資申し込みに際して、レガシーファンドからの分配を待っている状況です。

米国では、1,700件を超える中小ファンドが今後2年間で満期を迎えようとしており(図表23、これがカタリストとなって案件取引の活発化が見込まれます。この状況は、優良資産をより長く保有しようとするマネージャーにとっても、セカンダリー取引の絶好の場を提供するでしょう。そして、資本を有する投資家には、それを有効活用する新たな機会が提供されると見ています。

図表2:数多くの小規模不動産ファンドが満期を迎える
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数多くの小規模不動産ファンドが満期を迎える

出所:プレキン、202411月。

セカンダリー取引は、より良い条件で優良資産に投資できるチャンスであり、ポートフォリオの分散や下方リスクの低減などの効果が期待できるほか、資金回収期間がより短いといったメリットがあります。数多くの中小規模不動産ファンドが満期を迎えようとするなかで、GP主導のセカンダリー取引を通して非コア不動産配分を積み増す絶好の機会であると見ています。

センチメント改善が示す、コアプラスの投資機会

業界に吹いている幾つかの追い風は、リセット後のバリュエーションで積み上がった資金を投入する魅力的な機会をもたらすと見ています。2024年の案件取引量は9%4、過去12カ月にわたる不動産価値はレバレッジ無しで4.5%5を記録しています。

バリュエーションが底を打ち、価格が回復しているなかで、コア物件に対する投資家のセンチメントが改善しています。コア投資戦略を採用する大型プライベート不動産ファンドのパフォーマンスを測定するNFI-ODCEインデックスは、2四半期連続でプラスのリターンを記録しています。加えて、ODCEコア不動産ファンドの解約待機額は、投資家の解約取り消し、セカンダリー取引、ファンド償還を背景に、過去3四半期で100億米ドル減少しています(図表3)。

しかし、短期的にキャップレートの大幅な低下は予想しておらず、より投資妙味に優れるのはコアよりもコアプラスとなるでしょう。制約のないコアプラス戦略は、住宅、データセンター、ホスピタリティ、物流ロジスティクスなど見通しが最も良好な代替不動産セクターへの投資から恩恵を受けると見られます。

図表3:解約待機額の減少はコア/コアプラス投資家のセンチメント改善を示唆
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ODCEファンドにおける解約待機額がNAVに占める割合

出所:カラン、IDR

主要セクターが魅力的な投資機会を提供


新たな不動産サイクルの始まりが確認されています。取引量の増加が価格発見の拡大に繋がっており、需要は業界全般にわたり依然として旺盛です。魅力的な投資機会を見出している主要セクターとしては、世界的な住宅危機、人工知能(AI)革命、消費者トレンドなどの重要なテーマとの結びつきが強い住宅、データセンター、ホスピタリティ、物流ロジスティクスなどが挙げられます。

住宅

世界的に、住宅市場の動向は供給不足と高額の2つの言葉で要約できます。

米国では、住宅不足が深刻で、住宅所有コストの上昇と継続する在庫不足を背景に生涯賃貸を選択する人々が増加しています。集合住宅の賃料は過去15年間で45%上昇7し、昨年の新築供給がピークに達した局面でわずかに減速しただけでした(図表4)。

図表4:住宅ローンのコスト上昇をうけて生涯賃貸を選択する人が増加
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住宅ローンのコスト上昇をうけて生涯賃貸を選択する人が増加

出所:CBRE20243月。

米国において、集合住宅の供給見通しは10年ぶりの最低水準まで落ち込んでおり、新規着工件数はピーク時から36%減少しています8。今後も、空きスペースが減る中で、賃料は再び上昇すると見ています。限定的な新規供給を踏まえ、魅力的なリターンが見込まれる既存物件を改修する機会が増加すると見ています。

米国の代替住宅セクター、具体的には戸建て賃貸住宅、組立住宅、高齢者住宅でも魅力的な投資機会を見出しています。

戸建て賃貸住宅では、人口動態のトレンドと住宅所有コストの上昇が需要をサポートする一方で、新規供給は限定的です。同セクターは、人口の多いミレニアル世代が従来の住宅購入年代に突入している流れから恩恵を受けています。金利と住宅価格が高いため、住宅購入より賃貸が手頃です。しかし、戸建て賃貸住宅の供給もまた低水準です。2018年以来、売出し戸数は毎年減少しており、足元における供給不足は約400万戸と推定されています9。また、今後1年間にわたり、売れ残った戸建て賃貸住宅の在庫を窮地に陥った住宅建設業者から取得する機会があると予想しています。

組立住宅では、土地の取得やゾーニング(用途地域の指定)に関する手続きが複雑であることから、供給が需要に全く追いついていません。新たなコミュニティの開発はほとんど行われておらず、今後10年間で既存在庫はさらに14%減少すると予測されています10。また、機関投資家による所有が非常に少ないため、投資家にとっては魅力的な参入機会が存在するとともに、コスト削減を実現できる余地も大きい考えられます。

高齢者住宅も人口動態の長期トレンドから恩恵を受けています。米国における80歳以上の人口は、2030年までに400万人以上増加し、1,880万人に達すると予想されています11。それと同時に、80歳以上の高齢者に対する、4565歳の家族介護者の割合は、現在の約半分にまで減少すると見込まれています12

しかし、高齢者住宅の供給も低水準です。高齢者住宅の開発は、コロナ禍で大幅に鈍化し、ほとんど回復していません。高齢者住宅の着工件数は既存在庫のわずか0.2%という水準まで減少しており、需要が増加し始めるこのタイミングで、近年における最低水準まで落ち込んでいます13。新たな施設の建設には多額のコストがかかるため、開発は容易ではありません。その結果、既存ストックへの需要が高まり、賃料の上昇を後押しする展開が見込まれています。

アジア太平洋地域においても、代替的な賃貸住宅分野には魅力的な投資機会が存在しています。豪州やアジアの一部の国々では、学生寮や高齢者住宅において、堅調な運営基盤が整っています。

データセンター

AIが世界経済の中心に急速に台頭する中、データセンターに対する爆発的な需要は2025年以降も供給を大きく上回ると予想されており、これを活用する魅力的な投資機会が生まれています。このような背景から、データセンターの賃料は上昇しており、ディープシークによる新たなAIモデルに関する市場の憶測があるものの、賃料水準は今後も堅調に推移すると見込まれています。

ディープシークモデルは、主要な大規模言語モデル(LLM)と同等の性能を発揮しながら、より低コストで開発されたと報じられています。この開発が市場に与える影響については憶測が飛び交っていますが、私たちは、より効率的なAI技術の登場はデータセンターにとってネットでプラスになると考えています。なぜなら、人工汎用知能(AGI)やロボティクスのような革新的技術の実現が、AI関連アプリケーションの導入・利用を一層加速させ、収益性の向上にもつながる可能性があるからです。言い換えれば、「安価なAI」の普及は、AIそのものへの需要をさらに押し上げる要因となるでしょう。

AIモデルがますます高性能かつ効率的になるにつれて、私たちはデータセンターへの需要が今後も継続的に増加すると見込んでいます。特に注目すべきは、最大限の柔軟性を提供し、複数の用途に対応できるTier 1(ティア1)というロケーションの重要性です。

データセンターの投資機会はグローバルに広がっていますが、現時点で最も有望な市場は米国と欧州です。これらの地域では、土地の制約、煩雑な許認可プロセス、そして電力アクセスの課題などが参入障壁となっており、競争を制限する要因となっています。特に欧州では、各国が自国独自のAIインフラ・エコシステムの構築を目指す動きが強まっており、政府需要が今後大きな成長源となる可能性があります。このような背景から、米国・欧州におけるデータセンター投資は、安定性と成長性の両面で極めて魅力的なものと考えられます。

データセンターにおける供給の逼迫は、現地にリソースを持つディベロッパーにとって有利に働くと考えています。土地の確保がますます困難になる中で、地域に根ざしたネットワークや行政との関係性を持つディベロッパーは、他社に対して優位な立場を築くことができます。

ホスピタリティ

近年、ホスピタリティ・セクターは、コロナ後のレジャー需要の急増から恩恵を受けました。この需要は安定化しつつありますが、団体旅行やビジネストラベルは回復しています。しかし、他セクターと同様に、一部の分野はストレス下に置かれています。

ホスピタリティ業界は資本集約型のセクターであり、多くの資産が市場の流動性不足により資金調達が難しい状態にあります。これにより、代替費用を下回る価格でこれらの資産を購入し、効率的な実行を通じて価値を追加し、最終的にはそれらを収益化する機会が生まれています。

特に欧州では、ドル高を活用して米国人旅行者が増えていることから、魅力的な投資機会が見込まれます。さらに、欧州では独立系のホテルが多数を占めており、多くが建設コストや金利の上昇により資本不足や投資不足に直面しています。このため、これらの独立系オーナーは売却を希望している場合が多く、国際的なブランドとの提携によって欧州での足場を拡大しようとしている企業にとって、良い機会となります。

ホスピタリティ業界では、運営の専門知識が不可欠です。最良の資産を所有し、資本を賢明に配分することは、オペレーターが事業を成長させ、強いリターンを実現するための鍵となります。

物流ロジスティクス

市場の混乱を逆手に取り、本質的価値を下回る価格で高品質な物流施設を取得する投資家にとって、魅力的な物流関連の投資機会を見出しています。

米国では供給がピークを迎え、新規開発は減速しています。堅調な経済と、拡大を続けるEコマースの普及が、引き続き倉庫スペースへの需要を牽引すると予想されます。一方で、新規着工の減少によって空室率は低下傾向にあり、賃貸市場における価格決定力の改善が進んでいます。これにより、今後の賃料成長を後押しする環境が整いつつあります。

アジア太平洋地域では、この傾向はさらに顕著です。工業化が進んだ国々においても、物流インフラの質がいまだ現代的な水準に追いついていないため(図表5参照)、既存物件のリノベーションを通じて賃料収入を高める、非常に魅力的な投資機会が生まれています。たとえば豪州では、2025年に予定されている新規供給のうち、すでに40%が事前契約済みです14。全国の空室率は1.9%と世界的にも非常にタイトな水準にあり、現代的な物流施設への高い需要が示されていることから、今後の賃料上昇に大きな余地があると見られます15

アジア太平洋地域では投資環境も良好で、2024年第4四半期の取引量は前年比23%増加しました16。今後、日本、インド、豪州の国内総生産(GDP)成長率は、2025年に加速すると予想されています。これらの経済の拡大に伴い、物流施設に対する需要が高まり、賃料は上昇すると予想しています。

図表5:アジア太平洋地域の物流施設は、クオリティ面で米国に劣る
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アジア太平洋地域の物流施設は、クオリティ面で米国に劣る

出所:CBRE20245月。

将来に向けたポジショニング


今は不動産に投資する絶好のタイミングであると考えています。回復している不動産市場、ストレスを抱え資本不足の所有者、供給不足と根強い需要が、不動産投資市場全体にわたり魅力的な投資機会を生み出しています。

しかしながら、マクロ経済の見通しは依然として不透明です。今後数年間のインフレ動向、経済成長、金利の方向性を左右するような、地政学的リスクや政治環境の変化、そして市場の混乱とばらつきを乗り越えるためには、保有期間にわたりキャッシュフローの成長を最大化する現地の運営能力が求められます。

前回のサイクルでは、キャップレートの低下がパフォーマンスに大きく寄与しましたが、今後数年にわたり高いリターンを獲得するには、ファイナンシャル・エンジニアリング(金融工学)に頼るのではなく、運営の向上を伴う事業計画を成功裏に遂行することに重点を置く必要があるでしょう。

注記

1.    プレキン
2.    注:米国のカウンティ全体の約75%における様々な納税申告書から入手した総計360万件の商業用不動産モーゲージのデータを使用しています。ローンの約60%が当初の満期日に返済されていませんが、分析はランダム・フォレスト・モデルを用いて未返済額を算出しています。ランダム・フォレスト・モデルは試行ごとに結果が異なるため、5回の試行による平均値を示しています。原データには約25%のカウンティが含まれていないため、S&Pは、カウンティの総生産と物件数を用いる別のモデルを作成して、それらのカウンティにおける総モーゲージ金額を推定しました。最終的に、これらは市場全体と比べると比較的少額でした。
3.    プレキン。ファンドの存続期間を10年と仮定。
4.    年金不動産協会、「統計概要」、2025年2月12日。
5.    CPPI
6.    NFI ODCEインデックス
7.    CBRE、2024年3月。
8.    コリアーズ、「速報 | 住宅着工の内訳は変化している」、2025年2月20日。
9.    Realtor.com、「住宅供給不足は2024年に約400万件に到達」、2025年3月10日。
10.    ムーディーズ・アナリティクス
11.    ウォール・ストリート・ジャーナル、「ブーマー世代の高齢化が高齢者住宅市場を再活性化」、2025年2月11日。
12.    AARP公共政策研究所、「ベビーブーマー世代の高齢化と介護者不足の拡大:今後減少する家庭内介護者」
13.    NICマップ・ビジョン、「高齢者住宅への投資: NICマップ・ビジョンのデータによると、2030年までに全米の高齢者住宅開発に2,750億米ドルの投資不足」、2024年6月26日。
14.    CBRE、「豪州の産業施設と物流施設の事前契約済み供給は高止まり」、2025年1月16日。
15.    CBRE、「豪州の産業・物流施設の空室率レポート2024年上半期」、2024年7月3日。
16.    JLL、「アジア太平洋資本トラッカー2024年第4四半期」、2025年1月20日。

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